かつらの歴史 第7回 明治〜現代のかつら・ウィッグ日本史

2020年9月16日

ウィッグ(かつら)の歴史を研究している、アデランス元社員・学術研究員・益子達也さんに伺う、ウィッグ(かつら)の歴史。今回は明治から現代のかつらについてお伺いします。
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―前回までは日本のかつらやかもじ(入れ毛)についてお話をうかがいました。今のような洋風のウィッグが使われるようになったのはいつ頃からですか?

益子氏:西洋文明が入ってきたのが明治時代ですから、それからのちのことになりますね。1883年(明治16年)に鹿命館が完成すると、洋装に合わせて前髪にさげる毛(赤いつけ髪)が使われたようです。さらに、1904年(明治37年)以降になると、川上貞奴という女優によって、ひさし髪に入れ毛をするルイズまげ(マリー・ルイズ)が広められました。


川上貞奴

川上貞奴


洋かつら・ウィッグとしての流行は、1914年(大正3年)、島村抱月、松井須磨子らが芸術座で「復活」を上演し、この時にカチューシャに扮した須磨子が紅毛かつらを特注したことにはじまります。島村抱月と松井須磨子は、同じ年に帝国劇場で上演されたイギリスオペラ「ローシー」の主役女優が使っていたかつらを見て、このかつらを作ったのだそうです。


松井須磨子

松井須磨子


この時のかつらは、歌舞伎かつらの技術を応用して、銅の台金にチュールネットを貼り、人毛を植え、オキシフルで脱色して赤毛に見せて、鉄の棒コテでカールをしたそうです。この舞台を機に、ウィッグにネットが使われるようになり、それが一般的になりました。


―西洋文明とともに、洋風のウィッグも流行したのですね。そうなると、イギリスやアメリカの流行が、そのまま日本に入ってきたのでしょうか。

益子氏:そうですね。ただ、大正の終わりから昭和の初めにかけては、戦争の影響もあり洋風のウィッグはあまり流行しなかったようです。


次に洋風のウィッグが流行の兆しをみせるのは、戦争が終わった1950年以降のことです。アメリカで人毛の総ウィッグがおしゃれ用としてのきっかけとなり、1958年にはウィッグブームが復活。合成繊維の髪毛が開発されました。この合成繊維のウィッグは染色も可能だったそうで、イギリスにも広まりました。


こうした世界の流行を受け、日本でも1961年に化繊が開発研究され、1964年には商品化されます。けれどもまだまだ流行はしなかったようです。


1969年になると、輸入・国産ともウィッグの売上が伸び、1971年にはウィッグをつくる企業が相次いでうまれました。このころから、ウィッグの主流はセットの手間や経済性から、総ウィッグから手間のかからないヘアピースに変わっていきます。


1975年頃になると、粗悪品やずさんなアフターケアの商品が出回ったことから、ブームも衰退してしまいます。けれども、技術力が高く、アフターケアがしっかりするようになった現在では、ウィッグは再びブームとなっていて、カット・セットが可能な高級ファッションウィッグも出始め、男性かつらの優秀なノウハウを採り入れて進化を続けているのです。



By Quadell

―女性のウィッグもさまざまな変遷をしてきたのですね。では、最後に男性のウィッグについても教えていただけますか。

益子氏:男性のウィッグは、ファッションとしてだけでなく、薄毛などのコンプレックスを解消するために活用されることも多いですね。近代のウィッグの元祖は、1867年のアメリカで、毛髪で作ったネットを台にした、薄毛隠しのヘアレースであり、これはもともと長髪のウィッグを使っていたイギリス、フランスにも逆輸入されました。


日本の男性かつらは、大正末期~昭和初期くらいに出現し、洋かつらを応用したのが始まりだと言われています。さらに、ファッションウィッグの盛衰期に大手男性かつらメーカーが現れ、現在では薄毛の状況に合わせて、様々な増毛法が開拓されるようになりました。


私たちアデランスも、1968年の創業以来、「毛髪関連事業を通じて、より多くの人に夢と感動を」をモットーにさまざまな技術研究を行っています。過去の歴史に学び、皆様が笑顔になれるような技術、そして商品を開発していきたいですね。


―ウィッグの歴史を知ることで、さらにウィッグが身近になったように思います。ありがとうございました!


本連載分の年表 第7回 明治〜現代のかつら・ウィッグ日本史





    >第1回 古代における世界のかつら・ウィッグの始源

    >第2回 中世~17世紀のかつら・ウィッグ世界史

    >第3回 18世紀~現代のかつら・ウィッグ世界史

    >第4回 神代のかつら・ウィッグ日本史

    >第5回 古代〜万葉の時代のかつら・ウィッグ日本史

    >第6回 能や歌舞伎のかつら・ウィッグ日本史

    ・第7回 明治〜現代のかつら・ウィッグ日本史




参考文献:

現代髪学事典(NOW企画1991/高橋雅夫)、髪(NOW企画1979/高橋雅夫)、古事記・日本書紀(河出書房新社1988/福永武彦)、万葉集[上・下](河出書房新社1988/ 折口信夫)、神社(東京美術1986/川口謙二)、祖神・守護神(東京美術1979/川口謙二)、神々の系図(東京美術1980/川口謙二)、続神々の系図(東京美術1991/川口謙二)、日本靈異記(岩波書店1944/松浦貞俊)、ことわざ大辞典(小学館1982/北村孝一)、天宇受売命掛け軸 (椿大神社)、能(読売新聞社1987/増田正造)、能の事典(三省堂1984/戶井田道三,與謝野晶子)、能面入門(平凡社1984/金春信高)、カラー能の魅力(淡交社1974/中村保雄)、能のデザイン(平凡社1976/増田正造)、歌舞伎のかつら(演劇出版社1998/松田青風、野口達二)、歌舞伎のわかる本(金園社1987/弓削悟)、江戸結髪史(青蛙房1998/金沢康隆)、日本の髪型(紫紅社1981/南ちゑ)、歴代の髪型(京都書院1989/石原哲男)、裝束圖解[上・下](六合館1900-29/關根正直)、日本演劇史(桜楓社1975/浦山政雄、前田慎一、石川潤二郎)、女優の系図(朝日新聞社1964/尾崎宏次)、西洋髪型図鑑(女性モード社1976/Richard Corson、藤田順子 翻訳)、FASHION IN HAIR(PETER OWEN1965-80/Richard Corson)、江馬務著作集第四巻装身と化粧(中央公論社1988/江馬務)、原色日本服飾史(光琳出版社1983/井筒雅風)、 Chodowiecki(Städel Frankfurt1978)、西洋服飾史(文化出版局1973/フランソワ・ブーシエ、石山彰 監修)、おしゃれの文化史[I・Ⅱ](平凡社1976-78/春山行夫)、西洋職人づくし(岩崎美術社1970-77/ヨースト・アマン)、大エジプト展(大エジプト展組織委員会/日本テレビ放送網)、古代エジプト壁画(日本経済新聞社1977/仁田三夫)、フランス百科全書絵引(平凡社1985/ジャック・プルースト)、洋髪の歴史(雄山閣1971/青木英夫)、天辺のモード(INAX1993/INAX)、他参照書籍多数、他ウェブサイト参照、他かつら会社、神社等取材先多数


協力者:

高橋雅夫氏



初回記事公開日 : 2015年11月24日

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