真田弘美 教授 インタビュー 頭皮の健康とウェルビーイングの関係性 Vol.1

2016年6月10日

ウェルビーイングには、頭皮の健康が欠かせません
hair_restoration04_v1
東京大学大学院 医学系研究科健康科学
老年看護学/創傷看護学分野 教授

「スカルプ(頭皮)ケア」という言葉はあるが、サイエンスと言えるだろうか。これをサイエンスにして頭皮と毛髪の問題を解決することが本当の意味のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に健やかな状態にあることを意味する概念)につながる。


患者の頭皮に何が起きているのか、
まずは状態を知ること

褥瘡(床ずれ)に注目された経緯を教えてください。


看護師として就職した最初の年に、初めて早期の褥瘡を見つけ、看護師長に報告したところ、「褥瘡を発生させたのは看護の恥なのよ」と言われました。

そうした言い方を初めて聞いて驚き、どうしたら予防できるのかを文献で調べましたが、わかったのは『まったく科学的に解明されていない』ということだけでした。 さらに、何年も、中には10年も褥瘡が治らない患者様も珍しくなく、それを「治らないから」と諦めてしまう看護の現場では、患者様も看護師も苦しんでおりました。そこから、褥瘡の研究に取り組むことになりました。


kami01

それが、なぜ頭皮に結びついていったのでしょうか。


毛の成長においては、毛乳頭細胞が重要な働きを示します。

波長の長い赤色光が、毛乳頭の褥瘡に端を発し、これまで慢性創傷を広く研究してきました。その一つが乳癌が皮膚に転移した癌性創傷です。癌性創傷とは、女性のシンボルともいえる乳房を中心に大きく壊死組織が表在化するものです。それにより患者様は、多量の浸出液や強い臭い、そして痛みを抱えながら社会生活を送ることになります。


このような、正にウェルビーングが損なわれた状態になられた患者様の苦痛を少しでも軽減するため、癌性創傷のケアを根本から見直すための研究を行いました。その中で、乳房と同様に女性のシンボルである毛髪を治療の過程で失うことに対しても、患者様がひどく傷ついて苦しんでらっしゃることを知り、そして私たちがこれまで培ってきたスキンケアに関する知識や技術はこの問題にも応用できる、私たちが取り組まなければならない課題だと感じたわけです。


ウィッグを使ってらっしゃる患者様は多く、
そして「辛い」とおっしゃる。

乳がんの患者会で話を聞くと、「ウィッグをかぶると皮膚がチリチリと痒みや痛みがあって辛い。だから、ウィッグではなくてバンダナを巻いている」とおっしゃる方もいます。

女性の立場から考えると、バンダナを巻いて日常生活を送るのも、仕事場に行くのも苦痛なものです。ウェルビーイングのためには、その方にほんとうに合ったウィッグが必要だと感じました。


しかし、頭皮に何かが起こっているからウィッグの着用が難しいのか、いくら調べてみてもそのようなデータがまったくありませんでした。チリチリ痛むのは表皮の問題なのか、それとも中の真皮の問題なのか、何が問題なのかわからない限り、どんなにウィッグからアプローチしても患者様は快適には繋がりません。


そこで、患者様の頭皮の状態をより良く保てれば、好きなウィッグを選べるはずだ、ということに考えが及びました。そして、まず患者様の頭皮に何が起きているのかという実態を知る研究を始めようと思ったわけです。

よく、『スカルプケア』という言葉が巷で使われていますが、それをサイエンスにするという考え方がまだ出来上がっていません。サイエンスにするということは、現象やメカニズムをエビデンスとして蓄積し、エビデンスに基づいた確かな医療を提供するということです。

そうしたスカルプケア・サイエンスを打ち立てるために立ち上げたのが、多職種連携チームです。


kami02

インタビュー・文/前屋 毅 撮影/圷 邦信

Vol.2 頭皮の状態自体を変えることによって問題解決へ に続く →

おすすめ記事