基礎医学と臨床医学が一体となった「癌・炎症と抗酸化研究会」

※所属、役職は取材当時のものとなります。

内視鏡外科の第一人者である北野正剛大分大学学長は、がん治療における精神的なケアとして、 特に乳がん患者に「安心して治療を受けてもらうためには抗がん剤による脱毛を防ぐ」重要性を説く。
基礎医学と臨床医学が一体になり、新たな治療法の開発を目指す「癌・炎症と抗酸化研究会(CIA研究会)」を発足させた。

患者に優しい低侵襲治療を実践する

「最終的に自分の手で手術をして患者を助けられる」と外科医になったという北野正剛学長は、「切らない手術のほうが傷みは少ないし、傷の治りが早い」と長年、患者に優しい治療を求めていた。以前から内視鏡治療を始めていた北野学長は、1990年11月にアメリカ・コロラド州で研究仲間の1人による内視鏡手術を見学、日本にとって返し、同年12月13日に西日本で初めて胆嚢摘出の腹腔鏡手術を行う。以降、午前と午後に2人ずつ内視鏡手術で胆嚢を摘出し、その様子を毎日多くの外科医が見学に来て、その数は約500人ほどにもなりました」という。低侵襲治療のはしりといわれる内視鏡手術をいち早く実践、自らの内視鏡手術を全国の外科医に公開するとともに、「医療は冒険ではなく、あくまで安全にやることが大切」と合格率3割といわれる内視鏡手術認定医の制度を作るなど、内視鏡手術の普及に長年努めてきた。

インタビュー中、北野学長は低侵襲治療という言葉を繰り返す。これは単に難しい病気を治すだけでなく,身体の負担をできるだけ軽減し,その上でさらに効果的な治療を行う治療のことだ。まさに身体を傷つける範囲を小さくして術後の痛みを減らし,回復を早める内視鏡手術は、今では低侵襲治療と同意語にさえなっている。「大腸がんなら60%以上が、胃がんも45%が小さな傷を空けるだけの内視鏡手術でできます。お腹を開腹した手術では、患者は1週間お腹を抱えて歩きますが、内視鏡手術なら翌日から普通に歩けます」という。
さらに付け加えて、「がんになる前に、がんにならない生活習慣こそが最も大事」といい、我が身を振り返えさせられた。たばこを吸わないこと、バランスのいい食事をして太らないこと、そしてストレスを避け、楽しい生活をすることを挙げる。

北野学長自身は、休日にはパラグライダーやスキューバダイビングを楽しんでいると楽しそうに語る。
それでもがんに罹ってしまった場合は、北野学長に代表される外科医によるがんの部位を除去する治療法とともに、治療法の一つとして重要な意味を持っているのが抗がん剤治療だ。最近は日々進歩する効果的な抗がん剤によってがんを克服するケースも増えている。大分大学医学部は、地域医療の中核的な拠点であると同時に、北野学長に代表される内視鏡治療の拠点であることはもちろんだが、抗がん剤治療などにおいても低侵襲医療の実践を目標に研究を進めている。

癌・炎症と抗酸化研究会(CIA研究会)の発足

日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなると言われている。ただし、がんになるのは免疫力が落ちた高齢者がほとんどだが、乳がんや子宮がん、卵巣がんなど女性特有のがんは、40代や50代の比較的若い世代でも罹りやすい。

抗がん剤治療の場合、特に乳がんなどに罹った働き盛りの女性の場合は「髪が抜ける」不安に襲われます。そこで大分大学医学部では、抗がん剤を使っても髪が抜けないための研究をしているとうかがいました。

今までは、抗がん剤による脱毛はしょうがない、病気が治るならいいじゃないかとあまり問題にはなりませんでした。しかし最近は、みなさんの意識も変わってきていて、脱毛や頭がピリピリすることが抑えられたら安心して治療が受けられるという患者さんの気持ちに添わなければならないと思っています。そこで私たちに何ができるのかを臨床医や基礎講座などが一体となって抗がん剤による副作用防止の研究を進めました。その結果、抗がん剤を投与したラットに私たちが研究・開発しているαリポ酸誘導体を塗ると脱毛が抑制されることが分かりました。このαリポ酸誘導体が化粧品に使われていることもあり、産学連携で投薬剤を開発したのです。

臨床試験として、この5月3日までに103人の方にαリポ酸誘導体が入ったローションを使っていただき、その結果を半年、さらに1年かけて様子を見ることにしています。普通、手術が終わると化学療法を施しますが、そのときに薬剤を使わなくても半年後には脱毛も治りますが、このαリポ酸誘導体が入ったローションを使うことで、どのような違いが出るかを見るわけです。

治験で検証するのでしょうか。

私は「癌・炎症と抗酸化研究会(CIA研究会)」という観点から研究する開発者ですから、治験には参加しません。私たちはその製剤に関する特許を持っているので、それらについてのエビデンスに関しては別の研究者が評価します。

「癌・炎症と抗酸化研究会」の様子

 

「癌・炎症と抗酸化研究会(CIA研究会)」とはいつ頃、どういう目的で発足したのでしょうか。

大分大学医学部では2009年春より、産学共同プロジェクトとして、生体の根源的な現象である抗酸化の観点から、がんや炎症疾患の病態解明および新たな治療法開発を目指して研究を進めてきました。
このプロジェクトを発展させるべく、αリポ酸誘導体およびビタミンE誘導体などの新規抗酸化剤などに関して、本学の基礎及び臨床講座をはじめ、この分野でのトップクラスの研究実績をお持ちの多くの大学の先生方、さらに企業の研究者にも参加いただき、「癌・炎症と抗酸化研究会」を発足させました。本研究会は、これら種々の新規抗酸化剤を中心に広い視野に立って研究を活発化させて応用開発を推進することで、がんや炎症疾患をはじめ種々の疾患の病態解明と新たな治療法の開発を目指しています。

具体的に、この研究会にはどのような方が参加されているのですか。

抗がん剤の研究者や分析の専門家で、大阪大学や京都大学、慶応大学の方々が多いですね。また、看護師にも参加していただいています。ヘアローションは1日に何回ぐらい塗れば効果的なのかを知ることも大切なことです。さらに抗酸化剤は美白化粧品に近い内容ですから、製品関係企業にも参加していただいています。

αリポ酸誘導体は、男性型脱毛には効果はありますか。

大分で開業している日本臨床毛髪学会常任理事の倉田荘太郎医師と話をしたら、AGAにも効く可能性があるというので、アデランスさんにも協力いただいて、研究を促進していこうと考えています。その効果のほどは、実際に研究を担当している猪股雅史教授(こちら)に詳しく聞いてください。

インタビュー・文/佐藤 彰芳 撮影/田村 尚行

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