超狭帯域LEDの頭皮や皮膚への効果は各界で大きな注目を浴びています

※所属、役職は取材当時のものとなります。

一般的な薄毛治療には、内服薬、塗布薬とともに単波長の光による治療がある。
その光の治療は今までレーザー治療が主流だったが、レーザーは扱いにくく、大きな設備が必要だ。
こうしたなかで小笠原正弘医師が開発し、実用化されて大きな注目を浴びているのが超狭帯域LEDだ。
特に、超狭帯域赤色LEDは育毛・発毛効果を発揮する──最新超狭帯域LEDの研究現場を取材した。

放射線科専門医であり、美容皮膚科のミニョンベルクリニックの小笠原正弘院長が、LED光(通常の半値幅は20〜40ナノメートル)をレーザーに近い超狭帯域(半値幅10ナノメートル以下)で照射する装置の開発に成功したのは平成17年5月のことである。小笠原院長は平成20年には、超狭帯域のLEDが発毛や美顔などの効果を発揮する──特に赤色の超狭帯域LEDは頭皮下の深達度に優れ、毛乳頭細胞をはじめとするさまざまな細胞の活性化をうながし、育毛・発毛効果がある──というその成果を、日本美容皮膚科学会の会場で発表した。

その講演会場にいたのが、本誌9ページに登場いただいている大阪大学大学院の皮膚科を専門とする乾重樹准教授だ。この出会いをきっかけに乾准教授との毛髪科学における超狭帯域LED照射の共同研究が進んだ。その結果、赤色だけでなく、緑色、青色など波長の異なる超狭帯域LED単色光の患部照射による効果は、毛髪科学分野のみならず、光学系などの分野からも大きな注目を浴びるまでになった。

毛乳頭細胞を活性化させる超狭帯域赤色LED効果

赤、緑、青の超狭帯域LED照射によるそれぞれの具体的な効果とは。

小笠原正弘いま分かっているのは、髪の育毛・発毛には赤色が一番いいだろうということ。クリニックでは美顔効果としてLEDを使っていますが、緑色は中高年の方の保湿には効果を発揮していますし、また青色は安眠効果があるだろうということまで分かっています。

体の中には、赤色が一番深くまで入り、緑色は浅く、そして青色は表面に近いところまでしか到達しません。赤色が一番温かく感じ、赤外線に近い。緑色は多少温かく、青色は温かみが一番少ない。ただし、これらを一緒に体に当てても効果は少ない。これは太陽光線と同じで、太陽光線にはあらゆる波長が入っていますから相互に干渉し合って、何の効果もないんです。

LEDを超狭帯域で照射する方法とは、どのようなものでしょうか。

小笠原いろいろな波長が出る光をレーザーに近い超狭帯域で取り出すのに使ったのは、レーザー用のバンドパスフィルタです。もちろん光に関する専門会社にお願いし、真っすぐな光を出すようにしました。光をバンドパスフィルタに通すと、光のエネルギ−は何分の1かに落ちますが、超狭帯域光になります。その光を次に凹レンズによって広げ、「大面積化」とともに「立体構造物」への均一照射が容易にできるようにしたのです。

超狭帯域LED照射によるAGA毛髪再生臨床実験をされていますね。

小笠原超狭帯域の赤色LEDを男性モニター患者10人の頭皮に20分間、週1〜3回、3〜8ヶ月行いました。その結果、育毛の効果では有効率が100%。うち2名がほぼ治癒、7名が著効、1名が有効となり、ほとんどの人の抜け毛は減少し、長い間照射し続ければ、かなりの確率で毛が生えてきました。

超狭帯域赤色LEDは毛乳頭細胞を活性化させているのですか。

小笠原毛乳頭細胞だけでなく、すべての細胞を活性化させている可能性があります。そうしたさまざまな細胞が関係して、最終的に抜け毛が減り、毛が生えてきていると思われます。

超狭帯域LEDによる細胞の活性化など、医学的な応用に関してどのような共同研究をされていますか。

小笠原大阪大学大学院医学研究科とは、毛髪再生と創傷治癒をテーマに分子生物学的評価の共同研究を進めています。また、京都大学大学院工学研究科とは、超狭帯域LEDの光学評価およびその意義評価に関して共同研究しており、ほかにも超狭帯域青色LEDの誘眠効果なども研究しています。さらに照明関連会社企画部門などから多くの問い合わせがあります。

 

「光と細胞の相互作用」を工学的に研究する

京都大学大学院工学研究科の藤田静雄教授とともに、「光と細胞の相互作用」を共同研究している平尾孝研究員(工学博士・学術博士、高知工科大学名誉教授)にも話をうかがうことができた。

なぜ超狭帯域光が効果的なのか、広帯域光ではだめなのでしょうか。

平尾孝今後、照射光の帯域幅を変化させつつ生化学的な実験を行っていく予定ですが、現時点では2つの理由から超狭帯域光が効果的だと考えます。

一つは、臨床に用いた光強度は自然界における光強度に比べて、弱いということです。太陽光のもとで1時間外出すれば、臨床に用いた照射量に比べ、赤色領域の照射量はかなり多い。ヒトが自然界で浴びている量より少ない光を「あえて狭帯域のみ選択して」浴びることで効果が得られているのです。逆に言えば、広帯域の光で効果があるのなら、自然界の光を浴びるだけで十分で、「わざわざ狭帯域の光を浴びる」ことはなく、効果が見えるはずです。

もう一つは、発毛と育毛効果が赤色レーザー照射で見い出されたということです。もちろん広帯域赤色LEDが効果がないとは言えませんが、レーザー照射で効果があることは一般に知られていますから、深達度が大きく、細胞に届き、かつ波長効果を考慮することが重要だと考えます。

それはLEDにせよレーザーにせよ、半導体材料が用いられ、電子と正孔(ホール)(※1)の再結合によって発光している、という点では違いがありません。つまり細胞に光が届くと、光受容体によって電気信号が発生します。最も分かりやすい具体的な例は目です。目に光が入ると網膜にある視細胞により映像信号や明暗信号が発生し、脳にある第一視覚にRGBに対応した映像信号を送るのです。これが光と細胞との相互作用なのです。

いずれにしても生体への光の深達度の波長依存性が重要で、波長が長い光は深達度が大きいのです。つまり、波長が短い青色光は深達度が小さく、波長が長い赤色光は深達度が大きい。

ほかの可能性として、光によって毛乳頭細胞が刺激される共振効果も考えられます。それは光の共振効果によって電気信号で刺激し、細胞に特定のmRNA(※2)の変化やタンパク質の分泌を促すメカニズムです。これによってたんぱく質が毛母細胞から放出されていると想像できます(下表)。

育毛の起源は頭皮の表面から3 ~ 5mmの深さにある毛母細胞にあり、これが細胞分裂を繰り返して髪を作る。また、毛母細胞の先端にある毛乳頭が神経伝達物質や栄養を受け取り、毛母細胞の活動をさせる。したがって、発毛のためには毛母細胞を刺激し、活性化させることが必要である。青色光の皮膚中への深達度は0.5mm程度で毛乳頭には達しない。一方赤色光は毛乳頭に達する十分の深達度を持つ事から、発毛に寄与しているのは赤色光であると考えられる。

※1:半導体(または絶縁体)において、本来は電子で満たされているべき価電子帯の電子が不足した状態を表す

※2:たんぱく質に翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNA(リボ核酸)

LED研究の今後の展望をお聞かせください。

平尾光と細胞の相互作用により何らかの影響が細胞に影響しているといえます。今回は発毛・育毛や創傷治癒への効果について説明しましたが、そのほかにも、光は細胞の培養や分化の過程にも効果をもつと考えられます(下表)。また、青色LED光ががん細胞の増殖を抑えるという実験結果の報告もあります。LEDのさまざまな応用において、医学はもとより、半導体を中心とする材料科学の研究者、生化学の研究者が共用して、今後は「光医科学」という学術の創成にもつながっていくかもしれませんね。


細胞レベルでLED照射の効果を調べるため、正常ヒト毛乳頭細胞を培養地(10%FCS-DMEM)を用い、37℃、CO2濃度5%のもとで、35mm径の培養皿で培養皿の半分程度に増殖した状態になるまで培養。mRNA(伝送RNA)レベルの変化がタンパク質レベルで起きているかどうかを調べるため、培養ヒト乳頭細胞に超狭帯域赤色LED1.0J/㎝2の照射を連続3日間行い、照射24時間後培養上清を回収、mRNAの変化があったHGF、Leptin、VEGF、TNF-αの因子において、酵素結合免疫吸着法により培養上清中の濃度の変化を調べた。その結果、HGF、Leptin、VEGFの濃度は超狭帯域赤色LED照射による有意に上昇し、TNF-αについては有意な変化がなかった。

 

超狭帯域赤色LED照射は若いうちから日常的に

再び、小笠原先生にうかがいます。超狭帯域赤色LED照射は、まず自分の頭に毛乳頭細胞が残っているということが大きな条件ですね。

小笠原もちろん毛乳頭細胞が残っていることが条件で、そこに超狭帯域の光で皮下の深い所にある毛乳頭細胞に優しく当てるのは難しいのです。

ということは超狭帯域赤色LED照射は、早い段階から始めた方が効果があるという事ですね。

小笠原男性は20歳過ぎから髪が薄くなっていきますから、早めの超狭帯域赤色LED照射を日常的にすることをお勧めします。

女性の場合はどうなのでしょう。

小笠原女性の毛髪にも効果を発揮すると思っています。そこで岡山県にあるレーザー治療で名高い河田外科形成外科の河田真作院長にお願いして、超狭帯域LED照射装置を使用していただいています。今年の末頃には、女性にLED照射をした臨床データを発表していただけるのではないか、と思っています。

 

[平尾 孝(ひらお たかし)工学博士]

大阪大学工学部卒、同大大学院博士課程修了。工学博士。現在、京都大学発のベンチャー企業、株式会社FROSFIA監査役。

インタビュー・文/佐藤 彰芳 撮影/田村 尚行