自然な髪を実現するベースと、植毛&セッティング技術の革新

※所属、役職は取材当時のものとなります。

長年培われてきたアデランスのベースネットや毛植え技術の末に、今では人工皮膚の厚さは0.077ミリを実現したという。いかにリアルで、本物の頭髪に近づけるかが長年の課題だったが、もはや顕微鏡で見ても分からないウィッグベースを完成させた。
そのアデランスの真価を取材した。

誰にも見分けがつかない頭皮を新開発

ウィッグには男性用と女性用があります。そのコンセプトはどのような違いがあるのですか。

男性用と女性用は大きく違います。男性用はいかに本物の頭髪に近づけるか。付けている本人にも装着感がまったくないほどのリアル感を重視しています。女性用ウィッグは機能性重視です。ほかのメーカーにない特殊な機能性と分かりやすい利点がとても大事になります。

最近の男性用ウィッグはどのように進化しているのですか。

アデランスのベースに関して特徴的なのは人工皮膚のその薄さです。2年前に発売した「ヘアパーフェクト」では、本体ベースといわれる人工皮膚の厚さは0.077ミリです。ベースが薄くなったメリットは何かといえば、植毛の毛量を増やさず、少なくてもリアル感が出せるようになったことです。薄くなったというだけでなく、いかに頭皮に近づいたかが大きいんです。それは、植毛方法において〝引き抜き植え〟というウィッグ毛の結び目が見えない手法を使えるようになったことが最も重要なことです。

その引き抜き植えとは何でしょう。

それは従来からあった手法なのですが、細かいネットに人工毛を結び、その上に似たような細かいネットを重ねて植えた毛を引き抜く手法です。これが、ベースが薄くなったことによってさらにリアルになりました。それは頭皮の毛穴を表現し、拡大顕微鏡で100倍〜150倍と拡大しても本物の頭皮に見えます。他人に顔を近づけられて、頭皮をじっくり見られても分かりません(右図参照)。
これは、2013年9月に発売された「ヘアパーフェクト リベラⅡ」に採用されていて、「スカルプスルー」と呼ばれています。
また、男性が一番気にするのは、増毛商品と頭皮との境目です。境目にはどうしても段差が出てしまいます。特殊な粘着剤を使うことで、薄いベースネットが透明になり、頭皮との境目を消しました。また、フロント部に使っているベース素材は、空間性、隙間などを考慮した人工皮膚を使用しています。

毛穴までリアルに再現した「スカルプスルー」。アデランスだから実現できた毛植の結びが見えない毛植技法

 

連続装着が基本となる男性用ウィッグのベース

現在、男性用ウィッグとしてアデランスが推奨しているのは、この「ヘアパーフェクト リベラⅡ」ですね。

これは連続装着が基本で、3週間ほど付けたままでOKです。特殊な粘着剤を使って留める手法のほか、自分の毛を生かしながら留めていく手法、マイクロチップのようなチップが付いていて、それで留める方法など、その人の生活パターンやなるべく白髪を使いたいなどの要望により、何種類かの方法があります。
連続装着商品は、一体化した体の一部と考えています。それは、今までメガネを掛けていた人がコンタクトレンズに代えるような感覚です。しかも価格は、通常のウィッグ商品に比べて半額ほどです。一度装着すれば、3週間は外さなくてよく、洗髪はもちろんスポーツ時でも、ウイッグであることを意識することはありません。メンテナンスは各都市にあるアデランスのサロンで行うだけで済みます。

連続装着には、どのようなメリットがありますか。

付けている人は常に若返った自分しか見ないことになります。ワンタッチ式で取り外し自由だと、悩んでいたころの自分に戻った姿を見てしまいます。取り外したとき、やっぱり年だなとか、老けて見えるなど落ち込み、精神的なダメージを受ける人もいます。リベラⅡは一枚のベースネットでぴたりと装着しますから、彼を見る人も、頭皮に触った人さえも、それがウィッグだと分かりません。

地肌に直接装着して3週間も付けっぱなしにしていて、頭皮に痒みはないのでしょうか。

グルーイングと呼ばれる最新の方法では頭皮に密着させながらも通気性などを確保して、ダイレクトにシャンプーできるので常に清潔を維持しやすくなっています。かゆみや汚れなどの問題も、大幅に改善されたと考えています。

かゆみや違和感を抑えたストレスフリーな連続装着を可能にした新開発の粘着剤によって、ずっと装着したまま過ごせる「グルーイング」

増やす本数、ヘアスタイルも自由自在。ひとりひとりの理想のヘアスタイルを実現する「ヘアパーフェクト リベラⅡ」

最新流行のヘアスタイルに合わせた最新ウィッグ

今年6月には、さらに新たな発想から生まれた男性ウィッグを発売するとうかがいました。

それは連続装着ながら、地肌にも触れられ、地肌を指で洗うことができるというウィッグです。その商品の分け目はリベラⅡと同じ引き抜き植えですが、ほかのところはネット目が粗い仕様になっているものです。しかも今までのオーダーメイドでの植毛は1本植えが基本でしたが、今回は2本植えの〝ループフリー〟。2本で植えて2本で結び、2本を出します。2本にした理由は毛束感を出すためです。以前は7:3に代表されるカッチリとしたヘアスタイルが多かったのですが、最近は寝癖があるぐらいがちょうどいい、洗いざらしぐらいがいいというヘアスタイルが流行ってきました。1本植えの場合、毛がさらさらになってしまいますが、2本植えの毛束感により、ヘアスタイルに立体感が出ます。結び方もゆるめにして、体の動きと一緒に髪もふわふわと動く、そんなヘアスタイルを可能にしたウィッグです。
この商品はリアルを追求した部分と使いやすさをミックスしたいいとこ取りのスペックでつくられています。

機能性が問われる女性用ウィッグ

女性用ウィッグの機能性重視とは、具体的にどのような点ですか。

まず昨年発売し、最も人気のある商品は「イヴグレース」です。
これは男性用ウィッグで使用している薄さ0.077ミリの人工皮膚だけで作ったベースが特徴です。それまでのベースネットは特殊機能を付け、耐久性重視で分け目も付けなければいけないと少々厚かったのですが、0.077ミリの人工皮膚は皮膚のように薄いので、どこで分けても自然さが出るんです。
女性製品のなかで最も軽いウィッグとしてたくさんのお客様に支持される商品になりました。
また、女性用ウィッグはネットの形状が違うとか、ネットの目が粗いとか、細かいとか、さまざまな要素で違ったスタイルを楽しめることも大きな特徴です。だから、ファッションに合わせて何種類ものウィッグを持っている人も多いのです。
女性の場合は、ウィッグをつけているわよ、と話題にして楽しんでいますから。

女性用ウィッグで新たに発売して話題を呼んでいる女性用オーダーメイド・ウィッグは、具体的にどのような機能が付いていますか。

今年3月に発売された「イヴフワト」が最も新しい女性用オーダーメイド・ウィッグです。これにはアデランス独自に開発したさまざまな機能が付いています。
コマーシャルでなじみの「ポンッ、きゅっ、ふわっ」は新開発のストッパー「クイックタッチ」によるもので、ウィッグを片手で一押しするだけで自分の髪にすぐにフィットします。これは面ファスナー状のストッパーが成せる技です。
次に新開発の機能は、前髪のアレンジが自在にできるフロント部分に付いた「フワトアップ」。これはマスクなどにも使われている樹脂ワイヤーで、そこに人工毛を植え付けています。女性のイメージが一番変わるのは前髪を上げるか、下げるかです。前髪の上げ下げが簡単に自由にできるので、額を見せたり隠したり、前髪を思い通りにアレンジすることができ、とても喜ばれています。
そしてもう一つの機能が「ライズへア」。これは一日中ふんわりした立体感のあるボリュームを出すことができる機能です。ウィッグの植毛時に、長い髪の間に短くてカールが強い毛を混ぜて植毛しています。それによって髪の毛を立ち上げ、ボリュームが出るようにしているのです。つまり強いカールの毛がゆるいカールの毛を支えていると考えてください。

■クイックタッチ
サッと留まってしっかり安定させるストッパーが、しっかり髪にからんでウィッグを固定する(実用新案登録第3134280号)

■ライズヘア
髪を根元から立ち上げる。短い髪が長い髪を支えて、ふんわり立体感を保ってくれる

■フワトアップ
上下自由に曲がるので、前髪の上げ下げも簡単で自由になる(特許第5498619号)

 

女性用オーダーメイド・ウィッグには、女性をさらに美しく魅せる機能と付けたり外したりする手軽さを意識した機能にあふれています。このようなさまざまなアイデアは、どのように生まれてくるのでしょうか。

確かに男性用ウィッグは技術力が必要になってきますが、女性用はアイデア力そのものです。女性用ウィッグのアイデアは、長年の経験から次なる機能が生まれてくることもありますが、私どもの部署のほか、生産管理部、現場技術者などと話し合ったり、他所にあるいいアイデアを変換して、ウィッグに応用したり、いろいろ試行錯誤の末に、女性用ウィッグの中で実現しています。

清涼感のある「やわらかネット」。ウィッグに使っているネットは軽さと薄さが感じられる素材

 

インタビュー・文/佐藤 彰芳 撮影/圷 邦信