あるとき、劇団四季からアデランスへ一本の電話が入りました。
「どんなに激しく動いても大丈夫なミュージカル用ウィッグがほしいんです」

打診を受けた社員は、当時の技術では、求められるものをつくるのは困難と判断しました。
けれど、相談を受けた根本創業社長(現会長)は、こういったそうです。

「お客さん(劇団四季)と一緒に作ればいいよ」

この一言から、躍動感あふれる猫へと変身するためのウィッグが共同研究開発され、総公演回数1万回を超えるロングラン『キャッツ』の日本での公演が実現しました。

また、この経験から得たノウハウを活かし、耐久性と通気性を備えたウィッグの土台を採用した商品(女性用レディメイド・ウィッグ「VALAN®」)を誕生させています。

この「一緒につくる」姿勢は、本書のなかでご紹介してきたように、さまざまな場面で新しいものを生み出す力になってきました。

医療用ウィッグは、がん患者さんの支援をしているVOL・ NEXTと一緒に患者さんの声を聞くことから開発がはじまりました。

東京大学、大阪大学、東京工業大学、大分大学、東京医科歯科大学などの研究機関とは、脱毛・発毛のメカニズムの解明や抗がん剤治療時の脱毛予防のほか、さまざまな研究に取り組んでいます。

さらに、次世代の素材ともいうべき構造タンパク質(ブリュード・プロテイン™)の研究を行っているスパイバーとの共同開発によって、石油由来の原料に頼らず地球に優しいものづくりのあり方も探っています。

知識と経験を合わせることで、実現が難しいと思われたものも「できる」に変わります。
「一緒につくる」は、これからもあらゆる要望を実現に導いていくはずです。

取材・文/中山圭子