「毛包細胞を培養することで、太く健康な髪が再び生えるようになります」
そんな前人未踏の“毛髪培養”を研究しているのが、ARI=アデランス・リサーチ・インスティチュートの元CEO、ケン・ワシニック先生です。はたしてそれはどんな仕組みで、従来の毛髪再生とはどう違うのでしょう?

「大きな特徴は、自身の毛包細胞を採取し、培養してから戻すこと。だから拒絶反応が起こりにくく、かつ髪の質や生え方が極めて自然です。そして何より画期的なのが、戻された細胞によって毛包全体が活性化すること。それにより髪が生え、太く長く育ち、抜け、また生えるという健全なヘアサイクルが復活します」

現状の毛髪再生といえば、薬剤治療か植毛が一般的です。薬剤治療は薄毛の進行を遅らせ、植毛は自然な見た目で薄毛をカバーできるものの、ともに髪の自然再生という面では限界があります。
しかしこの毛髪培養であれば、毛包細胞自体を再生できるので、自髪の完全な再生が可能なのです。

ARIは現在、この毛髪培養の研究で世界を大きくリードしているといわれます。その重要なカギとなっているのが、米・ボズレー社の存在です。ボズレーは毛髪移植の分野で北米トップシェアを誇る会社で、2001年にアデランスグループの一員に参画しました。そして、その際に立ち上げられたのが、アデランスとボズレーが協働で毛髪培養の研究を進める機関・ARIだったのです。両社のタッグこそが、毛髪培養の研究を進めるうえで大きな強みとなりました。

「治験をする際、本来は人の毛包細胞を採取するのがベストですが、提供してくれる人を集めるのが容易ではありません。だから基礎研究では多くの場合、マウスの細胞を使います。でもボズレーには毛髪移植を行う患者さんが何万人もいて、そのなかから細胞を提供してくれる方を多く見つけられます。だから基礎研究の段階から人の細胞を使うことができ、それが高い成果につながっているのです」

すでにARIでは、毛髪培養の技術でFDA(アメリカ食品医薬品局)の定める安全性と効果性の基準をクリアしています。もし市販化までこぎつければ、毛髪再生の世界を一新する可能性があります。現在は一時停止していますが、再開に向けて検討されているので、今後の動きにぜひ注目したいところです。


ケン・ワシニック先生
医学博士。ボズレーメディカルグループ最高医療責任者。
脱毛に対する皮膚病理学的治療における臨床研究で高い評価を受ける。
米国アトランタとフィラデルフィアに拠点をおくARIのCEOも務めた


「ARIの強みは、ボズレー社が脱毛で悩む人の毛髪(頭皮)を集める
ことができること。それによって、基礎研究の段階から人間の頭皮を
研究に用いることができることです」とワシニック先生は胸をはる

取材・文/田嶋章博 撮影/宗廣暁美