ウィッグは、脱毛に悩む人が自分らしく生活するために欠かせないアイテムです。ウィッグを着用することで、心理的コンプレックスが改善され、前向きに生活できるようになるといわれています。ところが、これまでその事実を医学的な視点で調査したデータはありませんでした。
「医学的な効果を示すエビデンスがなければ、ウィッグはただのファッションアイテムというあつかいにしかなりません。患者さんからウィッグをしたほうがいいでしょうかと相談されても、医師には薦めるべき根拠がなかったんです」

そこで乾重樹先生は、ウィッグと患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の関連性を調べることにしました。円形脱毛症の女性患者と、男性型脱毛症の女性患者、男性型脱毛症の男性患者という3タイプを対象に、約100人の患者と面談をしたところ、ウィッグを着けることでやる気や向上心がアップするということがわかったのです。ウィッグが患者のQOLを改善させることが明らかになったのは、世界でも初めてのことでした。

「世界毛髪研究学会という国際会議に登壇し、ウィッグのQOLについて話した際、韓国のベテランの先生から『ウィッグの必要性について話してくれたのはあなたが初めてだ』と激励の言葉をいただきました」
ウィッグが重要だと感じていたのは、日本だけではなかったのです。

しかし、なかには「脱毛症治療の根本的問題から目をそらしているだけ」と、ウィッグによるQOLの改善に対し、否定的な意見もあったといいます。乾先生は「治療が最優先事項であることは変わらない」としつつ、こう考えます。

「脱毛の治療をしている間も、患者さんは普通の日常を送らなければなりません。ウィッグがあることで、生活しやすくなり、その他のQOLが改善されるのであれば、積極的に活用していくべきだと思います」
医学的エビデンスがあることで、今後、ウィッグは医療用アイテムとして広く認知されていくことになるでしょう。

「小さいころから脱毛症で悩んでいた患者さんが、大学に進学すると『スカーフを頭に巻いて授業を受けてはいけない』と注意されたそうです」と乾先生。病気を知らない人、理解のない人が、彼らの心を傷つけてしまうことがあるという

乾重樹先生
大阪大学医学部皮膚・毛髪再生医学寄附講座 特任教授。
医療法人桃恵会 心斎橋いぬい皮フ科院長。赤色LEDの研究にも携わる

「小さいころから脱毛症で悩んでいた患者さんが、大学に進学すると
『スカーフを頭に巻いて授業を受けてはいけない』と注意されたそう
です」と乾先生。病気を知らない人、理解のない人が、彼らの心を
傷つけてしまうことがあるという