その他脱毛症について

成長期性(萎縮毛性)脱毛症

1)円形脱毛症

頭部に鶏卵大までの脱毛班が1~数個生じます。まれに多発融合し、全頭髪が脱落します。
脱毛は頭部だけでなく、全身の毛組織(眉毛、まつ毛、あごひげ、腋毛、陰毛、体の産毛)に起こることがあります。

出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.82

休止期性(棍棒毛性)脱毛症

1)接触皮膚炎・慢性湿疹による脱毛

湿疹・皮膚炎が、長期にわたり持続すると炎症性障害が毛球部にまで波及し、稀に休止期性脱毛を起こします。

2)脂漏性皮膚炎・フケ症に伴う脱毛

フケ増多を伴う頭皮の脂漏性皮膚炎の炎症症状により休止期性脱毛を起こします。

3)分娩後脱毛症(産後脱毛症)、ピル使用後脱毛症

ホルモンバランスの異常による一過性の脱毛で、放置しておいても約半年で元に戻ります。

4)その他

ストレス(病気による高熱、難産、外科手術、大出血、精神的ストレスなど)により成長期毛包が急速に休止期に陥り脱毛することがあります。

1)左)頭部慢性湿疹に伴う脱毛:乾いた落屑(フケ)も多い。 右)アトピー性皮膚炎に伴う脱毛 出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.103

2)【フケ症】:湿った厚いフケが認められる。
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.105

3)【分娩後脱毛症(産後脱毛症)】:産後2ヶ月で脱毛してきた例。
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.116

4)【休止期脱毛状態】:外科手術後、3週で脱毛してきた例。
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.117

全身状態(疾患)に伴う脱毛症

1)栄養障害による脱毛 ~断食・飢餓療法、いわゆる「ダイエット」による脱毛~

飢餓状態、肥満治療のために強いカロリー制限が行われた際、間違ったダイエットを行うと、毛包に吸収される栄養が少なくなるため、毛は細く、つやがなくなり、脱毛や断毛しやすくなります。

2)内分泌疾患に伴う脱毛

①甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)
びまん性脱毛が40~50%に見られます。脱毛は頭全体に見られ休止期脱毛です。毛は細く柔らかになっていきます。甲状腺ホルモンの分泌が多すぎ、新しい成長期の毛髪が発育しにくくなるためと考えられます。円形脱毛症を合併することがあります。

②甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは毛の発育にとっては欠かせないホルモンの一つで、この不足が脱毛に関連していると考えられます。毛の30~70%が休止期状態にあり、脱毛は頭全体にびまん性におこります。また、眉毛の外側3分の1の脱毛、腋毛、陰毛の減少が見られます。

③その他
まれに、下垂体機能低下症、副甲状腺機能低下症、アジソン病(副腎疾患)、糖尿病でも脱毛することがあります。性皮膚炎の炎症症状により休止期性脱毛を起こします。

3)膠原病に伴う脱毛症

①全身性エリテマトーデス(=全身性紅班性狼瘡、SLE)
若い女性に発症することが多く、発熱、顔の蝶形紅班などがみられ、全身の結合組織を侵す疾患です。
20~70%に、病勢(発病期、増悪期)に一致して前頭部から側頭部にびまん性の脱毛が見られます。また、円形脱毛症を合併することがあります。

②慢性円板状エリテマトーデス(DLE)
青年から中高年に発症します。主に日光に照射されやすい部分にできる限局性、萎縮性、角化性の潮紅局面で、薄い雲母状の鱗屑(フケ)を付着しています。できやすい部位は頬で、耳介、鼻尖、上口唇、指の背にも発症します。まれに頭皮にも生じ、皮膚は萎縮性で、後に瘢痕脱毛を残します。

③進行性強皮症、剣創状強皮症
■進行性全身性強皮症
全身の結合組織を侵す疾患で、皮膚は四肢の末端から硬化し始め、次第に中枢側に広がります。
進行例ではびまん性脱毛が見られることがあります。
■限局性強皮症
皮膚に斑状の硬化局面を生じます。前頭部から額にかけて発症すると、頭部では瘢痕性脱毛症となります。サーベルできられた傷のように見える剣創状強皮症といいます。

④その他
シェーグレン症候群、慢性関節リウマチ、関節性乾癬などでもびまん性脱毛症を起こすことがあります。

4)【休止期脱毛状態】:外科手術後、3週で脱毛してきた例。
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.117

バセドウ氏病(甲状腺機能亢進症)にみられた びまん性脱毛
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.120

剣創状強皮症による瘢痕性脱毛症 眉毛部にも認められる。
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.123

薬剤による脱毛症(薬剤性脱毛症)

1)抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)

びまん性脱毛で、薬剤使用後、数日~数週間で起こり、高度の脱毛をきたします。一時的な成長期の抑制ですので、使用を止めれば回復は早いのが普通です。

2)副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)

ステロイド剤は重篤な病気の治療に欠かすことができませんが、長期にわたって使用すると多くの副作用が生じます。その副作用の1つとして、その男性ホルモン作用から、脂漏が増強したり、男性型脱毛症に似た休止期性脱毛をきたすことがあります。頭頂部に起こりやすく、男性型脱毛症との区別が必要ですが、残っている毛は、太さや長さが同一で、軟毛が無いので区別可能です。

3)その他

成長期性脱毛症には、タリウム中毒(ケラチンの合成を阻害する)、ホウ酸の大量吸収などの事故報告があります。休止期脱毛には、ヘパリンないしヘパリノイド(抗血液凝固剤)、ビタミンA過剰使用などの報告があります。

抗悪性腫瘍剤による薬剤性脱毛症 左)臨床像(使用後2週間) 右)使用をやめると頭髪は急速に伸びる
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.124

感染による脱毛症

1)真菌症による脱毛

頭部白癬(しらくも)は幼児期や格闘技をする人たちに時に見られます。症状は原因菌の種類にもよりますが、毛が折れていたり、切れたりして、稲を刈り取った後の田圃のように見えます。毛孔に一致して黒点が多数見られることもあります。鱗屑が見られることもあります。白癬菌は、皮膚の角層に感染しますが、同じ性質の毛幹にも感染し、毛幹が破壊されて起こる脱毛です。さらに深部に入り込み、白癬菌性毛包炎を起こし、毛包を破壊し、瘢痕性脱毛を起こすこともあります。ケルスス禿瘡(とくそう)といいます。白癬菌感染は動物から感染することがあるので、犬や猫などペットを飼っている時には、その検査・治療も必要なことがあります。軽症例では外用剤でも治りますが、毛包炎は皮膚科医による内服治療が必要です。顔の体部白癬(たむし)の際、あごひげ部、特に鼻下部に白癬菌性の毛包炎を起こすことがあり、白癬菌性毛瘡といいます。

2)細菌感染による脱毛

頭部の黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などによる化膿性毛包炎では、毛包を中心に膿瘍ができ脱毛します。毛包が破壊され、瘢痕性脱毛を起こしたり、瘢痕がケロイド化することもあります。まれですが、頭部の慢性膿皮症では、皮下で膿瘍が繋がり、後に多発性の瘢痕性脱毛症を起こしたり、同様に瘢痕がケロイド化することがあります。

3)梅毒性脱毛症

顕症梅毒第2期の症状の1つで、梅毒感染後5ヶ月ごろから発症します。症状は、後頭部から側頭部にかけてびまん性に脱毛し、その中に小さい脱毛斑が多発する「虫食い状」の脱毛です。頭頂部に脱毛が広がることはありません。手の傷(ひび割れ、逆むけでも)から意外な病気が感染することがあるので、手の保護に注意が大切です。

頭部白癬による脱毛 出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.126

機械的脱毛症(外傷性脱毛症)

1)新生児脱毛症

胎児は、胎生3ヶ月頃に毛包ができ、前頭部から頭頂部の毛包は胎生7~9ヶ月ころに次の毛周期に入りますが、後頭部の毛包は生まれてから休止期に入るので、毛は枕などにこすれて抜け落ちます。しかし、やがて成長期に入るので、この抜け毛は自然に治ります。

2)牽引性脱毛症

頭髪は、ポニーテールのような引きつめた髪型を長期間続けたり、ヘアカーラーで髪を強くセットするような習慣により脱毛します。牽引を止めれば回復します。

3)圧迫性脱毛症

頭の一部が数時間にわたって圧迫を受けると、数日から2~3週間後に脱毛することがあります。一過性の循環障害ですので、放置していても自然に治ります。

4)トリコチロマニア(抜毛症)

トリコ=毛、チロ=引っ張る、マニア=1つのことに集中すること。と言う意味です。日本語では抜毛狂ですが、正しい病名と言えないのでトリコチロマニアや抜毛症が用いられています。抜毛癖ともいいます。自分で抜いた結果、禿ているように見えるだけで、真の脱毛症ではありませんが、抜くと言う1種の機械的(外傷性)原因によります。子供に多い病気で、患児は、親から見れば「よい子-素直で、勉強も手伝いもよくする-」ですが、心理的に強いストレスに悩んでいます。
患児は無意識に、毛を抜いたり、千切ったりします。まれに、それらの毛を飲み込み、胃に毛塊を生じる場合もあります。子供によく見られる「爪かみ」や「指しゃぶり」と同じように、無意識に行う「クセ」の1種です。しかし同時に、心理的に何らかのストレスがあり、その原因を自分でも理解できず、また、上手に訴えることができない子供が発するSOSのサインと考えられます。年長の子供や成人では、本を読んだり、考えごとをするなど集中するときに無意識に行うこともあります。
症状の特徴は、短期間の間に移動する不整形の脱毛斑で、びまん性脱毛も見られます。残存する毛は当然ながら(短くても)成長期の硬毛です。小さい脱毛斑が1つだけから全頭に及ぶことがあります。

牽引性脱毛症
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.127

トリコチロマニア 左)不整形の脱毛班とびまん性脱毛 右)抜け毛のほか、毛を短くちぎっている
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.130

瘢痕性脱毛症

いろいろな原因で頭部の毛包が破壊され、消失すると、その部位は瘢痕となり、毛は再生できません。原因には白癬菌や細菌による感染症、DLEや剣創強皮症などの膠原病、重篤熱傷、怪我(外傷)、放射線障害や脱毛性毛包炎、萎縮性脱毛症などがあります。
小さい瘢痕性脱毛(ジャリッパゲ)は意外に多いものです。ある日、これを見つけて円形脱毛症では?と心配する人が少なくありません。異常な脱毛がないことを確かめて、恐らく小さい時の毛包炎(おでき)の跡で、広がる心配はないと説明することが大切です。

重症熱症による瘢痕性脱毛症 皮膚がんが発症している。
出所:本田光芳(監)(2009)「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会、p.133

脱毛症の種類