アデランス

アデランスの研究開発 Case

医療向けウィッグの進化とともに
業界全体でJIS規格化進行中

頭髪の疾患に悩んでいる方々に向けて、できる限りお役に立ちたい──。
アデランスとフォンテーヌは、医療機関とともに安全で安心して使える「ウィッグ」の開発に取り組み、 新たに「敏感肌に優しい」高度な医療向けウィッグを開発した。
さらにウィッグ業界全体として「医療向けウィッグのJIS規格化」の動きをお届けする。

最近、医療において特に重視されているのはQOL(Quality of Life)の改善だ。患者の生活の質を上げることで、精神的な安らぎをもたらすという。
総合毛髪関連企業のアデランス自身、「毛髪に関する悩みを解決したい」という思いで1968年に創業。以来、医療分野のウィッグに関してQOLを重視し、多くの分野でさまざまな取り組みを実践してきた。
例えば、1978年から病気やケガなどを原因とする脱毛に悩む小学生・中学生にオーダーメイド・ウィッグをプレゼントする「愛のチャリティーキャンペーン」を行い、すでに200人以上の子どもたちにウィッグを贈っている。さらに、抗がん剤の影響などによる脱毛で悩む方が多くいる病院内に理美容室(こもれび)を開設、患者様にウィッグ商品や頭髪に関するさまざまなサービスを提供してきた。取り組みはじめてから6年間で、13店舗を展開するまでになった。
昨年、新たな取り組みとして老年看護学・創傷看護学分野を専門とする東京大学大学院医学系研究科と「スカルプケアサイエンス」(頭皮に関するサイエンス)に関する共同研究も開始。総合毛髪関連企業として医療分野のウィッグに関して、スカルプケアの側面からの改良と開発に力を注ぐ。

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スカルプケアから生まれた最新の医療向けウィッグ

まず、医療向けウィッグには用途によってもさまざまな種類がある。頭部全体を自然にカバーする「全体ウィッグ」、必要な部分だけをカバーする「部分ウィッグ」、脳梗塞や脳腫瘍など外減圧術による頭部骨片除去を行った場合にその手術跡を保護し、リハビリに役立ててもらう「頭部保護帽子」。毛髪が抜けるような病気になった人はさまざまな不安があるのはもちろん、行動自体も制限されてしまう。特に抗がん剤投与による影響は、脱毛するだけでなく、頭部が敏感肌になる。
「そういう方に安心して使っていただけるかどうかが開発のポイントです。頭部に直接触れますから、ウィッグに使う素材そのものから開発する必要があります。また、免疫力が下がっていますから、付けたときにちょっとした縫い目等のひっかかりでも、とても気にされますので、繊細な技術も必要とされます」
抗がん剤などの化学的療法による脱毛は治療している間、髪の毛の量によってウィッグがゆるくなったり、きつくなったりする場合がある。その変化にスムーズに対応する医療向けオーダーメイドウィッグとして開発、発売されたのが「ラフラ・アイフィット」だ。この商品開発の根底にあるのは、敏感肌になっている患者様の頭皮の労りで、さまざまな工夫が施されている。

一つは通気性の高い、肌触りの優しい超極薄の2枚ネット素材を採用、頭皮へのザラザラ感やチクチク感を解消した。また、素材の縫い合わせを薄く仕上げることで、高いフィット感と自然な付け心地を実現した。さらにラフラ・アイフィットには装着具が無い。伸縮性に富んだソフト・ストレッチ・ネットは、頭や首の動きにしっかりフィットするので、自転車に乗ることも、風の強い日も安心できるという。また、分け目部分には一般のウィッグに使われる人工皮膚と比べ、94倍もの通気性がある素材を採用。蒸し暑い日本の夏でも快適に過ごせる工夫が施されている。  そして今年3月、繊細で過敏になった肌に対応した商品として「ラフラ・アイフィット プラス」を市場に出した。これには、ウィッグで初めてという制菌加工(SEKマーク橙色ラベル)を取得した素材が使われている。

これだけの技術を集積したウィッグは、高額な商品になるのではないか、と千藤部長に聞いてみた。
「医療向けウィッグというのは、ほかの女性用オーダーメイド・ウィッグや男性用ウィッグと違って、確かに特殊なウィッグです。こうした超極薄のネットや縫製技術、そしてセリシン加工や制菌加工などは、繊維メーカー・セーレン社との共同研究が無ければ作れません。実際、これだけのものをオーダーメイドでつくれば、一つ100万円ぐらいはするのですが、やはり『リーディング・カンパニーとして社会に貢献する』という創業以来のアデランスの考え方が根底にあり、28~30万円ぐらいで提供させていただいています」

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業界全体で医療向けウィッグのJIS規格化が進行中

医療向けウィッグに関して、さらなる動きがある。それはアデランス独自の動きではないが、アデランスが加盟する日本毛髪工業協同組合が主体となって、医療向けウィッグに関するJIS規格(日本工業規格)化を押し進め、経済産業省に申請しようという動きだ。
このJIS規格化にアデランスとして積極的に参画、規格基準の取りまとめに奔走しているのが、経営企画部の松岡博之副長だ。
「ファッション・ウィッグと医療向けウィッグとの違いは何か、と問われれば、ウィッグメーカー各社の考え方はそれぞれ違う、というのが現状です。これでは医療向けウィッグをお求めになる方は、何を目安に選んでいいのか分かりません。そこで、医療向けウィッグとは何か、そして消費者が医療向けウィッグを選ぶときに、この商品は安全で安心なものなのかを判断できる基準をつくろうという訳です」
このJIS規格化づくりに向けて、経済産業省との連携のもと、「医療向けウィッグ日本工業規格(JIS)化原案作成委員会」が発足したのは、2013年8月。構成する委員は生産者(ウィッグメーカー)、医療関係などの学術経験者、使用者の立場から参加する消費者などで、大阪大学大学院医学系研究科の板見智教授が委員長に就任した。
まず原案づくりの委員会は、医療向けウィッグとは何か、から始まった。さらに医療向けウィッグの適用範囲は、抗がん剤の副作用や、放射線治療による脱毛、重度の円形脱毛症、先天性脱毛症──などどこまでを含むのか。また、製品を構成する素材に関して、ベースとなる人工皮膚の最適なスペックとは何なのか、「全体ウィッグ」として頭に被るキャップの試験方法や基準、肌に直に触れる人工皮膚(スキンベース)、インナーキャップの基準をどこに置くのか。さらにキャップなどの素材に有害物質は使われていないか──など、さまざまな試験を行い、患者様の頭皮に配慮した規格にするため、課題を一つずつクリアにしていく地道な作業が続いている。
「医療向けウィッグは、各ウィッグメーカー以外に、通信販売や美容室でも販売していて、その数は増えています。なかには粗悪品もあってトラブルになるおそれもあります。ただし、大手ウィッグメーカーだけで基準を作れば、規格が細かくなりすぎ、大手メーカーだけしかその規格をクリアできなくなる。だから規格が厳しすぎてもいけません。そのあたりのバランスは難しく、慎重に規格化を進めているところです」
医療向けウィッグに関する情報は少ないので、どこで買ったらいいのか分からない。早急に消費者が安心して購入できる商品と環境を整備しなければならない。
「今後、医療向けウィッグのJIS規格化を通じて業界の信頼性と透明性が向上することを期待しています。そしてウィッグメーカーは企業としての利益を追求するだけではなく、事業を通じて社会的な課題を解決していく責任があると考えます」

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医療向けウィッグは医療費控除と保険適用を目指す

「医療向けウィッグのJIS規格が取得できると、患者様の安心感につながり、企業も自信をもって患者様に紹介できると思います。さらに、将来的に医療向けウィッグの保険適用や医療費控除が認められれば、患者様の身体的・心理的な負担を軽減するだけでなく、経済的な負担を少しでも軽くすることができると思います。しかし実現までには高いハードルと時間がかかります。そこで、スピードを上げて、より多くの人に医療向けウィッグの重要性を知っていただく機会がないか検討を進めています。」
と松岡副長は言う。こうしたなかで、アデランスはいち早く、2013年11月に損害保険会社のAIU保険株式会社との間で業務提携を締結した。
「AIU保険は日本で唯一、ウィッグの購入費用を実費で補償する商品を販売しており、医療向けウィッグの必要性に深い理解を示されています。加えて、アデランスの医療向けウィッグのクオリティの高さや患者さまの心情を理解した接客と充実したアフターサービス、全国の店舗ネットワークとの親和性はとても高いと思います。がんに罹患し、髪で悩んでいる患者様のQOLの維持・向上を目指して、一人でも多くの〝笑顔〟を大切にしたいという共通の想いで提携を進めています」
と、新たなる方向性も示す。

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インタビュー・文/佐藤彰芳・広重隆樹
撮影/圷 邦信・田村尚行