アデランス

アデランスの研究開発 Case

サイバーヘア、バイタルヘアを超え、人毛と遜色のない人工毛開発を継続中
紡ぎ出す

鞠谷 雄士 教授 × 関正 敏 研究員

数あるウィッグ・メーカーのなかで自社で人工毛髪を作り、開発し続けるのはアデランスだけ。AD研究開発部は人毛に負けず劣らない人工毛開発に飽くなき挑戦をし続けています。
将来、それぞれの髪質、髪の癖に合わせた究極のウィッグの実現が間近に迫ってきています。

先に発行した「Aderans plus」vol.2(2014年 Summer)で、アデランスの人工毛研究のアドバイザーである東京工業大学の鞠谷雄士教授は、次のように語ってくれました。
「アデランスとともに、現在研究開発を進めている人工毛は、さらに人毛に近づいています」
果たしてそれは、どのような人工毛なのでしょうか。
2015年11月、オーストラリアのディーキン大学で行われた第13回アジア繊維学会(ATC-13)で、アデランス研究開発部の関正敏研究員が、その研究開発の成果である「新しい人工毛」に関して口頭発表を行いました。この人工毛開発に貴重なアドバイスを送り続けていただいた鞠谷教授にも同席していただき、新しい人工毛の詳細について語ってもらいました。

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人毛のキューティクルを実現した新しい人工毛とは

関 正敏:少しおさらいすれば、バイタルヘアは〝芯〟と〝鞘〟の二重構造で、芯には半芳香族ナイロンを配合し、鞘にはナイロン6を使うことで柔軟性と風合いがある人工毛です。そして「今後、張りとコシが出やすいポリエステルを加えることで、より人毛に近づいた人工毛を開発する」ということでした。

今回の発表は、ナイロンを主体にして、ポリエステルを加えた人工毛なのでしょうか。

鞠谷雄士:そうです。ナイロンにポリエステルを練り込むと、うまく人毛にあるキューティクルのような凹凸ができる、というものです。その条件を詰めていくことで、新たな人工毛の製品化につながったという内容です。

関:人工毛髪で要求される性能にはいくつかあるのですが、まず商品価値を決める上でかなりのウェイトを占めるのは、髪の毛の艶感、いわゆる光沢というものがあります。
ナイロンやポリエステルなど汎用のプラスチックの場合、何もしなければ光沢が出てしまいます。それでは商品価値は生まれない。では、どうやってその光沢を消すのか。それにはいろいろな方法がありますが、一つの方法として、何か異物を入れて凹凸を強制的に作り出せないか、と。

ナイロンを使ったバイタルヘアでは、紡糸のあとに一定時間冷却することでキューティクルに近いものを作るとうかがいました。

関:ポリエステルであれば、かなり濃いアルカリに浸けると表面に凹凸ができます。しかし、一定の基準のものとして製品化するには、設備投資も含めてコントロールがかなり難しいのが現実です。そこで今回、コントロールが比較的簡便にできないか、ということでナイロンをベースとしてそこに一定の条件のもとでポリエステルを入れることで光沢が消え、凹凸ができるようになったというわけです。

〝芯と鞘〟構造でいえば、鞘がナイロン、芯がポリエステルですか。

鞠谷:まったく違います。今度の人工毛は〝海と島〟構造です。ナイロンとポリエステルは完全には混ざらないので、〝ナイロンの海のなかにポリエステルの島が浮いている〟イメージです。それをうまくコントロールすることで、凹凸が現れてきます。

全体がナイロンで、その上にぽつぽつポリエステルが浮かぶそのコントロールとは、どのようなものですか。

鞠谷:まず先に基本原理があります。ある素材の組み合わせと糸を作る条件を満たせば、人毛のキューティクルと同じような凹凸を持つ糸(人工毛)ができるという基礎研究があって、具体的に凹凸が出る原理とどれくらいの凹凸が出るかまでは分かっていますから、きちんと人毛の反射特性を測り、そこに着地するような条件を探索したわけです。これは作り込みの問題になります。

それは、バイタルヘアとはまったく違う紡糸方法なのですか。

関:材料の樹脂を熱で溶かした物を押し出して糸状に成形する溶融紡糸方法であり、バイタルヘアと基本的には同じ方法で行っております。

最も大きな変更は、押し出す前ですか、押し出した後ですか。

関:樹脂を押し出す前と押し出した後の両方とも大切で、製造時の安定性や特性が変化するのですが、それらを含めた製造条件全体を検討しています。併せて使用する素材からのアプローチもしています。

人毛のキューティクルと同じ凹凸を持った人工毛には、人毛のしなやかさも出るのですか。

鞠谷:いま、その人毛の髪のしなやかさをいかに作り込むか、が課題となっています。

関:人毛のキューティクルに近い反射特性を出すことはできました。しかし、ベースはナイロンですから、その先には人毛のしなやかさや風合いがいかに出せるか、ですね。

しなやかさや風合いを出すとは、柔らかさを出すということですか。

鞠谷:それが、その逆なんです。実は新しい人工毛は柔らかすぎるのです。

えっ? 柔らかいことはいいことではないのですか。

関:実際にウィッグにすると、計測機器で測定した物性値には表れない、見た目の状態、感触や使い勝手などの商品価値に結び付く課題が出てくるので、単に柔らかいというだけでは駄目なんです。

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新人工毛のデビューはいつか そして新たなウィッグの世界

そうした硬さと軟らかさの人工毛を自在に作ることができれば、人それぞれによって違う髪質も作ることができる、ということですね。

関:最終的には、そういうことになりますね。

鞠谷先生は、以前取材したときに、人工毛は高分子科学分野では非常に興味深い試みだとおっしゃっていました。今回の新しい人工毛についてはどのようにお考えですか。

鞠谷:凹凸がうまく出るようになった条件とその理屈を考えると、すごく面白いことが起こっていると思います。ナイロンとポリエステルによる〝海と島〟構造で、これほど凹凸が出てくるようになったということ、そしてこの現象を高分子科学的にきちんと基本原理を説明できるようになったわけですから。

また、鞠谷先生は前回、今後は一人一人のオーダーメイド・ウィッグもあり得るとおっしゃっていました。そういう意味では、その人の髪そのもの、色、硬さ、風合い、しなやかさ、柔らかさなどを持った髪が作れるということになりますね。

鞠谷:そう、前回の話でもあったと思いますが、一人一人の髪質を調べてその人だけの髪質に合わせたウィッグを作ることができるようになりますね。その道がちょっと開けつつあります。

新人工毛をきちんと操ることができれば、男性用と女性用のそれぞれのためのウィッグができる、と。

関:まだ新しい人工毛の方向性が見えたばかりですから、そのバリエーションはまだまだ先の話だとおもいますが……。

鞠谷:まだまだ作り込みの段階ですから、そう簡単ではありません。

新しい人工毛は、今後もナイロン6がベースになるのですね。

関:現在はナイロン6がベースですが、鞠谷先生に教えていただいて、ナイロン素材などをいろいろと試していこうとも考えています。

ところで、新しいナイロンにはどのような種類があるのでしょうか。

鞠谷:ナイロンには種類がいろいろあり、専門的にはアミド結合というのが入っていて、一番最初にデュポンが作ったのはナイロン66というものです。数字がいろいろあってナイロン12だったり、最近ではそれがもっと細かくなって、組み合わせたり、新しい化学構造を含んでいたりと、さまざまな性格のナイロンが開発されています。いま、主に使っているナイロン6にいろいろ混ぜて人工毛に最適なものを作ることができますが、そこにはまた、その材料の値段も関わってきますね。

今後は商品化が待たれます。市場に出すのはいつ頃でしょうか。

関:可能な限り早い時期の商品化を目指していますが、人工毛というのは、毛材単体が良好な状態であっても、実際にウィッグにしてみないと分からないのです。仕上がったウィッグを扱ってみての社内での評価が重要で、そのハードルは非常に高い。商品化する上でクリアしなければならないハードルはたくさんあります。ウィッグを実際に扱う営業現場からの声がどのように戻ってくるのかによって商品化の時期も違ってきますし、新人工毛がそれぞれのお客様のニーズの違いにどう対応できるかは今後の課題です。

繊維業界で最も権威のある一般社団法人繊維学会の会長でもある鞠谷先生にうかがいます。今後の人工毛開発に期待できそうな高分子科学の新材料はどのようなものがありますか。

鞠谷:昨年のアジア繊維学会で私が講演したのは、普通、ポリエステルを染めるには120度ぐらいの高い温度が必要ですが、安全な有機溶媒を使い、常温で繊維を延伸しながら、分子の配向と結晶化と染色を同時に行う技術の開発を行っています。この技術を応用すれば、今後、人工毛の色についても一人一人の髪に本当に合わせたものができるようになるという可能性がありますね。

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インタビュー・文/佐藤彰芳
撮影/圷 邦信、田村尚行