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アデランスの研究開発 Case

ウィッグは患者の心理にどのような影響を及ぼすのか

円形脱毛症や男性型脱毛症の患者さんが、ウィッグをつけると症状を見た目にカバーできるため、 気持ちに張りが出て、仕事や生活の質が改善される──。
これは一般的に言われていることだが、これまでそのことを科学的に示すデータがなかった。
この課題に取り組んだのが大阪大学の乾重樹准教授だ。世界初ともいえる、ウィッグの心理的QOLに関する 統計的調査を行い、ウィッグがもたらす心理的役割を解明した。

ウィッグの有用性について医学的データがなかった

どういうきっかけから、ウィッグに関心を持たれたのですか。

2010年に日本皮膚科学会において脱毛症の診療ガイドラインが策定されました。その中でウィッグについても推奨度を定めようとしました。そこで、医学的にウィッグが有用であるということを示す根拠になるデータがあるのかどうかを調べたのですが、これがないんですね。脱毛症の患者さんは、一般にウィッグを着用することで、心理的コンプレックスが改善され、前向きに生活できるようになるとは言われているのですが、それを医学的な視点できちんと調査したデータはなかった。
少なくともウィッグが患者さんに対して心理的によい働きをしていることを示さなければ、ガイドラインの中でこれを推奨することはできません。

今まで誰も調べなかった?

国内では、円形脱毛症の患者さんについて心理評価を行った論文が一つだけありました。ただ、これはきちんと統計処理されたものではないので、エビデンスとしては評価が難しい。EBM(根拠に基づいた医療)という考え方からすると、きちっとしたデータが必要だったのです。

そこで今回の調査を行われたのですね。

福祉用具利用者の心理的効果を定量的に評価するスケールとして国際的に使われている「PIADS」を用い、患者さんへのアンケートを行いました。
円形脱毛症の女性患者と、女性の男性型脱毛症、男性の男性型脱毛症という3タイプを対象に約100人の患者さんに面談して調査をしました。具体的には、26個のアンケート項目があって、ウィッグを装着するようになってそれぞれの項目が「よくなったか、悪くなったか」と、患者さんに記入していただくのです。

ウィッグのメーカーにはこうした調査事例はあるものなのでしょうか。

個々の製品の発売前に従来製品の違いとかモニター調査のようなものはあるでしょうが、メーカーがやるのはマーケティング調査ですから、医学的な調査とは言えませんね。

やる気やプライドの向上はウィッグ装着時の見映えと関係がある

その結果はいかがでしたか。

今回の調査では「効力感」(物事を行う能力、アンケート12項目)、「積極的適応性」(さまざまな仕事に適応する能力、6項目)、「自尊感」(自分の行いへの自信、8項目)の3つの因子が、ウィッグ装着によってどう改善されているかというアンケートを行いました。結論からいうと、ウィッグを装着すると、効力感、積極的適応性、自尊感がいずれも改善し、その効果はウィッグを装着したときの見た目の満足度と相関することがわかりました。
つまり、見た目によく満足しているという人は内面的にも非常にQOLがよくなる度合いが高い。見た目の満足度が低い人はQOLへの影響も低くなるという傾向があることがわかりました。

自分で見栄えに満足すれば自信がつき、自分で満足いかないと自信がなくなる。見た目の満足度を高めることが製品にとって大事ということですか。

そうです。それともう一つ、脱毛症が重症であればあるほど、効力感と積極的適応性の改善度も高まることから、ウィッグのQOLへの影響は見た目の変化の大きさによって変わることがわかりました。ただ、自尊感については、重症例でも軽症例でもあまり変わらない。それは不思議だなと思いました。重症の場合はウィッグをつけると見た目が大きく変わりますが、だからといってプライドが生まれるというわけでないのか。あるいは、軽症の場合でもプライドが高まるから、症状の軽重はあまり関係がないのか。どう解釈すればよいのか迷うところです。

症状が重い患者さんであればあるほど、やる気や積極性はプラスになる、ということですね。こうした調査結果は今後、どのように医療の現場では用いられることになるのでしょうか。

結論としては、ウィッグによって見栄えが変わるのは明らかです。それが患者さんの内面的なものをよくすることもわかりました。医学的手法で統計処理されたエビデンスが出たので、これを根拠に、今後、医師は患者さんに対して、ウィッグは有用なアイテムであると言っていただいていい。
これまでは、患者さんから「ウィッグを購入した方がよいでしょうか?」と聞かれたときに、極端に言えば、「あなたがしたかったらどうぞ」と答えるしかなかった。使用を薦めるための根拠がありませんでしたから。もちろんそれでも薦めたって構わないわけですが、エビデンスがあるかどうかは、医療従事者が推薦するときの自信や確信のほどと関係します。

データが、医師の自信を深めるわけですね。論文の内外からの反響はいかがでしたか。

欧米からはけっこう反応がありました。特にヨーロッパですね。北欧などでは円形脱毛症のためのウィッグが保険適用されることがあるので、患者のQOLにどう関係するのか関心のある研究者が多いのでしょうね。
5月に韓国で第8回世界毛髪研究学会があり、「脱毛患者のQOLのウィッグの効果についてのエビデンス」というテーマで講演しました。ウィッグについては唯一の講演でしたから、みなさんに熱心に聞いていただき、十分な手応えを得ることができました。ある韓国のベテランの先生は「長年、学会に出席しているが、ウィッグが患者にとって重要なアイテムであるにも関わらず、誰も話題にしてこなかった。君がはじめてウィッグについて語ってくれた」と賞賛してくださいました。


ウィッグを装着することで、心理的QOL(やる気、積極性・自信、プライドおよび全般)が改善。またルックスに対する満足度が高いほど改善度が高まるため、心理的QOL改善にはウィッグの整容的要素(見た目の自然さ)が影響することがわかる。
(国際的に権威ある医学誌“Journal of Dermatology”2012年3月号に掲載され、その後6月14日~ 6月16日に開催の「第112回日本皮膚科学会総会において、研究発表された)

インタビュー・文/広重隆樹 撮影/田村尚行

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